どうしようもない毎日

オットはすぐ仕事探すよと言ったものの、探している気配は見られず、起きてるんだか寝てるんだか死んでるんだかわかんない毎日。昼間に寝てて、夜中に起き出すから、一緒の家にいるのに顔を見ない日が続いた。ふたりでいるのにひとりで食べるごはんはとてもむなしく、生後2ヶ月の赤ん坊はぎゃんぎゃん泣くし仕事はぜんぜん片付かないし家事もひとりでやらなきゃいけないし、ついにわたしの糸がキレてしまった。

ドアを勢いよくあけて寝室に乗り込んだわたしは、「てめーいい加減にしろ!」的なことを言い、そこからはもう止まらなくなって、文句と罵声を言い続けた。オットは最初は黙ってたけど、そのうち言い合いになり、ものが飛び交い、部屋がぐちゃぐちゃになり・・・正直、この頃のことはあまり覚えてないのだけど、数日間はそんな日が続いた気がする。どうしようもなくなってリビングに戻ると、子どもが笑いかけてくれて、この頃はそれだけが唯一の救いだった。

3ヶ月は仕事NG

どうだった?と聞くと、よくわからないと言うオット。なに話してたの?と聞くと、いつから鬱っぽくなったかとか、小さいころの話とか、聞かれたことを答えてただけ、と。ふーん。
「そういえば、3ヶ月は仕事しちゃだめですよって言われた。探すのもやめたほうがいいって」
3ヶ月!!それを聞いた瞬間、頭の中で今ある蓄えと今後の収入見込みを計算している自分がいた。
「でも、3ヶ月も仕事しなかったら人間くさっちゃうよ。すぐに探すよ」と、オット。
そうかー大丈夫?と言いながら、この調子だったらすぐに見つけられるかもと、またもや抱いた淡い期待はすぐに打ち砕かれるのだった・・・

いざ精神科へ

鬱なオットに車を運転させるのも怖かったし、電車で行かせてよからぬことを考えられたらもっと怖いので、わたしが車を運転して病院に行くことにした。子どもを連れて待合室で待つこと1時間半。その間に、患者が入れ替わり立ち代わり診察室に入って行く。しかしみんな診察時間がめちゃくちゃ早い。ひとり数分、ってところだろうか。診察室から出てきた人はみんなたくさんの薬を処方されていて、なんだか薬をもらいに来てるだけのように見えた。
3冊目の雑誌を読み終えたところでやっとオットが出てきた。本当は、鬱病の人と一緒にいるときに気をつけたほうがいいこととかを先生に聞けたらいいなという希望を持っていたのだけど、そんなこと言ったらオットが嫌がるかもと思って結局言い出せなかった。オットもほかの人と同じようにいろいろな薬をもらい、病院をあとにした。

ピンからキリまで、な精神科

翌日、ネットで調べてみると評判の良い精神科が近所にあったので「電話してみれば?」とうながすも、電話したくないと言うオット。他人と話せない、電話ができないetc...は、鬱病によくある症状だというにわか知識を得ていたので、やっぱりなと思いつつ、わたしが代わりにかけることに。
「はい、○○クリニックです」
「すみません、予約したいんですけど」
「初診の方ですか?」
「あ、はい。わたしじゃないんですけど、オットが」
「初診だと一番早くて3ヶ月後の予約となりますがよろしいですか?」
「・・・あ、一度聞いてみます」


3ヶ月!!いくらなんでもそんなに待てない。というわけで、第二希望の病院に電話。


「はい、○○病院です」
「予約したいんですけど、一番早くていつが空いてますか?」
「初めての方ですか?」
「そうです」
「初めての方の予約ですと、1ヶ月半ほど先になりますが」
「・・・そうですか。ありがとうございます。また電話します」


3ヶ月に比べたら半分とは言え、1ヶ月半もじゅうぶん長い。本音を言えば今日すぐにでも看てもらいたいのだ。しかし精神科ってそんなに混んでるなんて知らなかった。もうとにかくどこでもいいやという気分で、Googleマップに表示された病院を上から順に電話することにした。


「はい、○○メンタルクリニックです」
「初診なんですけど、予約できますか?」
「はい。いつがご希望ですか?」
「むしろいつが空いてますか?」
「今週でしたら定休日の木曜日以外いつでも大丈夫です」
「・・・じゃあ明日で」
「お時間はどうされますか?」
「何時でも大丈夫です」
「では10時ではいかがでしょうか?」
「お願いします。」
「ではお名前をいただけますか」
「あ、わたし代理で電話してるので、うかがうのはオットなんですけど・・・(以下略」


なんともあっさり予約できてしまったこの病院。何ヶ月待ちの病院があると知ってしまった以上、いつでも大丈夫って逆に大丈夫か・・・と思ってしまうのが人間というもので。一抹の不安を抱え、でもまあ看板出して病院やってるんだから大丈夫だろうと自分に言い聞かせつつ、翌日を待つわたしであった。

自覚していたオット

告げられた漫画喫茶まで迎えに行くと、スーツケースを持ったオットを発見した。車に乗り込んだ彼は想像していたよりもふつうで、鬱病と疑ったのは思い過ぎだったのかも?と思うほどだった。
帰宅し、ごはんを食べてお風呂に入り何事もなかったかのように就寝したオットを見ながら、朝になったらこれまでの朗らかなオットに戻っているかもと思っていた。
しかしその期待は見事に裏切られることになる。
次の日、オットはぜんぜん起きず、顔を合わせたのはもう日も暮れる頃だった。やっと起きて来たオットにネットで見つけた「鬱病診断シート」を差し出すと、オットは何も言わずに記入し始めた。・・・結果は中度の鬱病
「これさ、鬱病かどうか調べるやつなんだけど」とわたしが言うと、
「うん。そうだと思ったよ」と、意外な答えが返ってきた。聞くと、自分でもそうじゃないかと思い、一度精神科に足を運んだのだそうだ。
「で、どうだった?」
「予約してないと看てくれないって言われた」
なんじゃそら。
とにかく明日は病院に行こうね。そう言って、その日は終わった。会話はほとんどなかった。

オット、帰還

どんなメールだったかと言うと、

私「大丈夫?もうそろそろ帰ってきなよ」
夫「俺なんていないほうがいいよ」
私「そんなことないよ。心配だから帰ってきてよ。せめて電話に出てよ」
夫「なんで心配なの?俺なんていなくていい人間なのに」

みたいな!
とにかく、返ってくるのはネガティブな言葉ばかり。それまでのオットは明るくほがらかでマイペース、わりと自分好きーな人だったので、彼がそんな言葉を発するのを見たことがなく、最初は嫌みで言っているのかと思うくらい。
いよいよ心配になってきたので(だって自殺とかされたらたまらん)、何が何でも家に連れ戻そうと、押してみたり引いてみたり。でもメールだからうまく伝わらない!!てか返してこない!!イライライライライラ・・・

心配しすぎると腹立ってくるよね。

「とにかく電話に出ろ!!じゃなかったら警察に行くからね!!」というメールでやっと電話に出たオットを説得すること1時間。なんとか居場所を聞き出し、真冬の午前3時、新生児を抱えてオットを迎えに行った。

頭をよぎった「鬱病」の二文字

「ほんとに出て行きやがった」。
というのがそのときの感想。

家に残された、わたしと新生児。
子どもが産まれたばかりのこの大変なときにこの仕打ち。いったいぜんたいなんなんだ。このときのわたしにはただただ怒りしかなく、そのままどこかでのたれ死ねとさえ思っていた。経験した人ならわかると思うが、新生児の世話はとにかくしんどい。しかもフリーランスのわたしは仕事量をセーブしないまま子どもを産んだので、仕事をしながら慣れない育児と、寝る間もないほど忙しかった。だから、そんなわたしを差し置いて仕事に行かないなんて信じられなかった。

なんだかもうどうでもよくなったので1日放置したものの、オットからの連絡はなく、さすがに心配になってきて2日目の夜に電話をかけてみた。が、どうやら電源を落としているらしく、つながらない。心配だから連絡くださいとメールを入れて、返ってきたのは翌日の昼。それからしばらくのメールのやり取りを経て、これはどうやらいつもと様子が違うぞと思ったわたしの頭に、ここで初めて「鬱病」の言葉がよぎった。